Mission 1
桜咲刹那
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夜の帳が下りた麻帆良学園都市の最 奥、女子高エリア。昼間の喧騒は鳴りを潜め、今は静寂だけが支配している。 この時間になると、外を出歩く者はほとんどいない。それも当然だ。もうすぐ日を跨ごうかという時間に、外を出歩く物好きはいない。加えてここは女子寮エ リアであり、外を出歩くにしても夜遊びに興じる女生徒くらいしかいないだろう。 もし他にいるとすれば、それは―――― ◇
麻帆良学園の外縁部。学園都市全体を覆う結界から一キロメートルほど内側に入り込んだ場所にある人工林に、幾度となく剣戟が響き渡っていた。 人工的な明かりのない林の中、その合間を縫うように数多の影が疾駆し、それらが交錯するごとに金属の摩擦によって生みだされた閃光が闇夜を照らしている。時折その音に混じって風を切るよう な轟音がすると、その度に影が断末魔の叫びを残し、消滅していった。 「…………!」 どれほどの時間が立っただろうか。一際大きな轟音が林に響くと、それを最後に剣戟が止んだ。最後まで残っていた影は乱れた息を整え、闇夜の中で着衣に付いた埃を払う動作をする。 そうしていると、先程まで雲に隠れて見えなかった満月が顔を出し、その場を少し ばかり照らし出した。 そこにいたのは、まだ幼い少女だった。年の頃は十三、四くらいだろうか。肩まで伸びた黒髪を左でサイドポニーテールに結い、幼さを感じさせる顔立ちをした少女。その双眸は細められ、切れ長の 目をさらに険しくしていた。左手には白木拵えの鞘に納まった巨大な野太刀、『夕凪』が握られている。現代において野太刀を携えたその姿は場違いという他ないが、彼女 の凛とした佇まいのせいかひどく似合って見えた。 彼女の名は桜咲刹那。麻帆良学園女子中等部2-Aの一員にして、裏の世界に関わる者の一人である。 ――今日も守りきった―― 刹那は慣れた手つきで夕凪を納刀しながら、万感の想いで息を吐いた。 彼女は時折クラスメイトの一人と組み、夜間警備員として見回りをしている。外敵の侵入はそう頻繁にあるわけではないので戦いになることは滅多にないが、今回はその“滅多にない”ことが起きたようだった。 しかし、その鬼の集団は既に彼女自身が討ち滅ぼした。気配を探っても、周囲に伏兵のいる気配はない。 これまでの経験則から侵入は一度きりだと思っていた彼女は、そのまま女子寮の自室に 帰ろうと踵を返した。 そこに突然、携帯の着信音がいやに大きく響き渡った。非常事態時の連絡手段として使われる携帯に、学園長から連絡が入ったのだ。 彼直々に電話がかかってくるとは余程緊急性を要することらしい。嫌な予感を感じながら彼女は上着のポケットから携帯を取り出し、素早く通話ボタンを押した。 『刹那君!』 携帯から聞こえてくるのは、やはり焦りを含んだ学園長の声であった。 「学園長、どうしましたか?」 『女子寮付近に敵が入り込んだようじゃ!』 「何ですって!?」 学園長の連絡に顔面を蒼白にする刹那。まさか自分が侵入者と戦っている間に、別の侵入者がこそこそと潜り込んでいたとは。 これまでの経験から、一月のこの時期に外敵が本格的に侵入してくることなど一度もなかった。故に、鬼の集団を倒した時点で“もう大丈夫だろう”と完全に油断していたのである。 何故たかだか鬼の集団を一度倒しただけで安堵してしまったのだろうと、彼女は自分の浅はかさを悔やんだ。 「応援は!?」 『今は手の空いている者がおらん!龍宮君も出払っておるし……』 応援は期待できない。その言葉を聞いた瞬間に、刹那は風となった。気を足に集中させ、疾風迅雷の勢いで走り出す。携帯の通話はその時既に切っていた。学 園長が「ちょっ……」と言っていたが、そんなことはどうでも良かった。 ――間に会え!―― 刹那はそう念じながら、いつになく慌てて女子寮に向かって走っていた。それは、学園長から侵入者の正確な居場所を聞くのすら忘れてしまうほどに。これは 完全に彼女の失態なのだが、そのことにすら気付かないほど、彼女は気が急いていたのだ。 もうじき女子寮に着く。そう思った時、彼女の耳が微かな音を捉えた。 銃声と剣戟に混じって響く、誰かの声。 ――誰かが戦っているのか?―― 最初は龍宮が足止めをしてくれているのかと思った。だが、彼女は銃を手に戦えども剣は使わないと知っているが故に、その推測を切り捨てる。ならば刀を扱う刀子さん もいるのかと考えるも、今日は彼女の担当ではないし、彼女の居住地も遠く離れているため、自分より早く到着するはずがないとその推測も切り捨てた。 ならば誰が、と考えるが、その後すぐに思考を切り替えた。 ――誰であろうと関係ない。私はただ、お嬢様を守るのみ!―― 刹那は左手の親指で野太刀『夕凪』の鯉口を切る。その場に到着すれば、すぐに抜刀できるようにと。 しかし、その必要はなかった。 何故なら、彼女が声が聞こえる場所に到着した時には―――― 「…………!?」 ――――全てが終わっていたのだから―――― 女子寮から二百メートルほど離れた通りに着いた刹那は、その光景に我を忘れた。 桜通りのコンクリートは所々めくれ上がり、その破片があちらこちらに飛び散っている。通りを照らすはずの街灯も完全に折れてなくなって おり、折れた先が何故か林に突き刺さっていた。魔法で修復するとしても、それなりの手間がかかるだろう。 そこの中心、一段と破壊が進んだ場所に、彼はいた。 夜の闇をも寄せつけぬほど存在感を放つ、血のように赤いコート。 彼女の身長を優に超える長さ持つ、両刃の大剣。 そして、光を反射して煌めく白銀の髪。 怪しいことこの上ない男が、そこにはいた。 予想を裏切る光景に少しの間意識を飛ばしていた彼女は、けれどもすぐに気を取り直して戦闘態勢に入る。いつどこからでも動き出せるように腰を落とし、正 体不明の男を睨みつけた。彼女は知っている。夜間警備員にこんな人はいないと。 「貴様は何者だ!どうやって入り込んだ!」 刹那の怒鳴り声に、男はようやく振り返った。振り返った彼の顔を見て、彼女はさらに確信を深める。 どうやら彼女の中では、侵入者がその男ということで確定してしまったらしい。少し冷静になって考えを巡らせれば、その場の不自然さから男と話し合いをす る余地はあっただろうし、異邦人である彼に日本語が伝わっているかも怪しいと考えることもできたのだろうが、お嬢様のことで頭に血が上っている彼女にそれ を求めるのは少々無理な話だった。 「目的は何だ!まさかお嬢様を奪いにきたのではないだろうな!?」 もしそうなら容赦はしない!と言って夕凪を抜刀し、男に切っ先を向ける刹那。全身に気が漲り、いつでも斬りかかれるように前傾姿勢をとる。 一方で、彼女に侵入者と認定されてしまった男――――ダンテは彼女の姿を認めると、訝しげに眼の前の少女を見つめた。 何故彼がこの場に居合わせたのか、それには理由がある。彼が複数の魔の気配を察知したからだ。 彼には、人間とそうでない者を見分ける一種の嗅覚とも言える能力がある。その能力は彼を一流の悪魔狩人たらしめる要因でもある。 その能力の命ずるままに外へ飛び出した彼は召喚者によって喚び出された異形達と遭遇し、交戦したというわけである。 もちろん、彼が侵入者であるはずがない。彼は正式な依頼の元、学園長に呼び出されたのだから。 そのことを知る由もない刹那は、いまだに彼に対して夕凪の切っ先を向けている。もし彼が少しでも不審な行動をすれば、一息に懐へ踏み込んで一撃を加える だろう。それだけの気迫が彼女にはあった。 しかし、彼は大人しく相手の言うことに従うような男ではなかった。彼女に凄まれてもどこ吹く風。右腕を彼女に向けると、クイクイと指を曲げて挑発した。 「C'mon. Lady.(来な。お嬢ちゃん)」 「っ!」 その瞬間、刹那は地面を蹴ってダンテの懐に踏み込んでいた。夕凪が弧を描き、彼の胴体を狙う。その動きに目は追いついているものの、身体の方は反応でき ないのか、彼は棒立ちのまま動 かない。いくら峰打ちとは言え、彼女ほどの使い手の一撃を受ければ、骨の数本は簡単に砕けてしまうだろう。 ――悪いが、一撃で決める!―― 殺しはしないが、西との関係を聞き出すために大人しくしてもらうぞと思い、刹那は夕凪を容赦なく振り抜いた。 こうして、ダンテの逆胴を薙ぐかに思われた一振りは―――― 「な……」 ――――あえなく空を切った。 ダンテに直撃することのないまま夕凪を振り抜いた刹那は、その体勢で硬直した。もし彼女の師が相手だったなら、即座に切り捨てられるほどの致命的な隙。 だが、彼女も未熟ながら戦士の端くれ。すぐさま感覚を研ぎ澄まして周囲の気配を探る。そして背後に気配を感じた瞬間、弾かれたように振り返って闇に奥に 視線を向けた。 そこにはリベリオンを肩に担ぎ、余裕綽々といった様子で構えるダンテの姿があった。その泰然とした姿がまた不気味さを醸しだし、彼女はのろのろと警戒の 構えを取る。 だがその振る舞いとは裏腹に、彼女の心中は混乱の極みにあった。 ――あの男、一体どうやって私の一撃を躱した?取ったと思った。絶対に取ったと思ったのに……なのにどうして……!―― 知らず知らずのうち、夕凪を握る手に汗が滲んだ。 確かに、刹那に油断があったことは否定できない。間合いに踏み込むまで、ダンテは少しの反応も見せてなかったからだ。それが直撃する直前、まるでそこに は最初から何もなかったかのように消え去り、いつの間にか背後を取られていたのである。悪夢としか言いようがない。 一方で、ダンテも内心驚いていた。夜間警備員がいることは知っていたが、まさか彼女のように幼い少女だとは露ほどに思わなかったからである。また、警備 員は全員魔法使いで古めかしいローブを纏っていると思い込んでいたこともあり、最初に刹那を見た時はちょっと頭がアレなお嬢さんだと思ったほどだ。その後 間もなく、彼女から滲み出るただならぬ気迫で警備員だと察したが。 そしてさらに驚かせたのは、彼女の踏み込みが予想以上に速かったことである。いくら警備員といっても見た目は少女。直前の異形達との戦闘が全く歯ごたえ のないものだったことから、大した戦闘能力はないと思っていた。 ところが暇潰しに挑発してみれば、彼女は予想を遥かに超える速度で懐まで踏み込んできた。かつて戦った中で彼女より素早い悪魔はごまんといたが、油断と 過度な過少評価によって体感速度は実際の速度以上だったに違いない。それでも軽々と躱したのは見事という他ないが。 ――結構楽しめそうだな―― 先程の戦闘は拍子抜けだったが、今度の相手はもう少し楽しめそうだと、ダンテの口元は小さな笑みを形作る。 その所作が刹那に見えたのだろう。混乱から立ち直っていた彼女の顔は怒りに染まった。 「貴様、何がおかしい!?」 威勢よく声を張り上げると、チャキリと音を鳴らして夕凪を持ち替え、刃先をダンテに向ける。一度躱されたことで、峰打ちで仕留めるという考えを捨てたら しい。油断も慢心もなく、今度こそ全力でかかってくるだろう。 先ほど以上に殺気を振りまいて睨みつけてくる彼女に、ダンテは素直に感心した。 「いや、その年にしちゃガッツあると思ってよ。これならそれなりに楽しめそうだ」 そう言うと、ダンテは肩に担いだリベリオンを下ろして左手を差し出し、刹那に頭を垂れた。 「Shall we dance?(踊ろうか?)」 「っ!ふざけるな!!」 刹那を明らかに馬鹿にした態度に、彼女は先ほど以上の速さでダンテに迫ると、夕凪に気を乗せる。神鳴流の真骨頂とも言える、気を使って放つ奥義の一つ。 ――奥義、斬岩剣!―― 文字通り岩をも容易く切り裂く大技『斬岩剣』。だが当たらなければ意味はないようで、ダンテは十分な速度をもって振るわれたそれを、後ろに下がることで 難なく躱してしまった。 回避は予想の範囲だったのか、刹那は狼狽えることなく斬撃を放つ。だが、彼はその全てをリベリオンで受け流し、反撃とばかりに左中段蹴りを繰り出した。 それは奇跡的な回避だった。反射的に上体を捻った彼女の脇を、惚れ惚れとするくらい鋭い蹴りが通り過ぎていく。一瞬額に冷や汗が浮かんだが、そこを好機 とみて次の技を仕掛けた。 体勢をいち早く整えた彼女は夕凪に気を纏わせ、斬岩剣の構えを取る。それに気付いた彼は残った足で地面を蹴り、後ろに下がった。まるで、先程のシーンを 再現するかのように。 それを見届け、彼女は斬撃を放った。 ――秘剣、百花繚乱!―― 夕凪の刀身が振るわれると、その先から気の斬撃が飛び出す。直線状に気の斬撃を飛ばす『百花繚乱』。それが距離を取ったダンテに追い縋るがごとく延びた のだ。斬岩剣と思われていた攻撃が気の斬撃として自身に迫るのを見て、彼も目を剥いたことだろう。 しかし、その程度の連続攻撃でやられるほど彼は弱くなかった。彼は飛んできた斬撃をリベリオンで受け止めると、次の瞬間に軽々と打ち払ったのだ。弾かれ た斬撃は明後日の方角に飛んでいき、木々を薙ぎ倒して終わる。 その後も幾度となく神鳴流の奥義が振るわれるが、それらが一度として命中することはなかった。初見の技でもどうにか彼のコートに掠らせるのが精一杯で、 一度その奥義を見せてしまえば、その後は刹那がどんなタイミングで奥義を放っても、簡単に躱されてしまうのだ。 彼が斬撃を躱し、時には受け止め、または斬撃の機先を制して出鼻を挫かれる度、刹那の心には焦りが募っていく。最初の斬撃を躱された時から、彼女も薄々 は感じていたのだ。 この男は、自分よりもはるか高みにある、と。 だとしても、彼女にはここで引くわけにはいかない理由がある。お嬢様の身を守るためならば、たとえ自分の命だろうと惜しくはない。故に、応援 が駆けつけてくるまで、命がけで彼を足止めする心積もりだった。 そこまで決意したところで、はたと気が付く。もし仮に、彼の力量の方が上であるとすると、何故自分の首が今もなお繋がっているのだろうか、と。 よくよく考えてみれば、彼女が自分から攻撃を仕掛けたことはあっても、一度として男の方から仕掛けたことはあっただろうか?反撃を受けはしたが、それは 斬撃ではな く全て徒手空拳による牽制のみ。命に関わるような攻撃を受けたことがない。彼が手を抜いているのか、それとも他に理由があるのか。そもそも彼は敵なのか、 味方なのか。彼女には判断がつかなかった。 そんな刹那の迷いが透けて見えたのだろうか。彼女の上段をリベリオンで受け止めたダンテは、押し返すと同時にジャンプして上空へ逃れ、まだ無事だった街 灯に着地した。彼の表情はムスッとしており、どうにも得心がいかないといった風である。 「……止めだ」 「何?」 「今日はもう止めだっつってんだ」 ダンテによる突然の戦闘終了宣言に、刹那は眉を顰める。それも当然だ。攻めていたのは彼女だが、実のところ戦闘をコントロールしていたのは彼に他ならな かったのだから。 だからだろうか。リベリオンを納める彼に、疑問が口を衝いて出てしまったのは。 「……どういうつもりだ」 「あん?」 刹那の本意が読めず、意味が分からないとでもいうかのような言葉を発するダンテ。その余裕に満ちた態度が気に入らず、つい言葉が止まらなくなってしまっ た。 「何故手加減した!貴様は私よりも強い!すぐに私を殺すこともできたはずだ!なのに何故……!私ごときに本気になる価値もないと言うのか!?答えろ!」 一気に捲し立てて息が切れたのか、刹那の呼吸は千々に乱れた。そのために酸素を求めて息を吸う音が、夜の静寂の中でよく響く。 彼女の怒りの声に、ダンテはどこ吹く風といった様子で言葉を返した。 「ハッ。その言葉、そっくりそのままお返しするぜ」 ダンテが呆れた口調で肩を竦めると、刹那の眉が持ち上がる。 ダンテからしてみると、彼女こそ手を抜いており、本気を出していないと言う。そんなはずはない、と彼女は頭を振る。お嬢様を守るために戦うのに、手を抜 くことなんて有り得ないとでも言うかのように。 まさかこちらの動揺を誘うための計略かと思い、彼女は騙されてなるものかと身構えた。 「何を言っている。私は本気でやっている」 しかし、ダンテの次の一言に、刹那は凍りつくことになる。 「そうかい。それにしちゃ、お嬢ちゃんから魔の匂いがプンプンするんだがな」 「な……?」 ――今、この男は何と言った?―― ダンテの言っていることの意味がよく理解できず、動揺を隠せない刹那。それも致し方ないことだろう。ごく一部の人間しか知らず、ルームメイトや親友にさ え隠していた彼女の秘密を、ダンテは見事に言い当てたのだから。 彼女の両足がガタガタと震えだす。歯の根が合わないのか、歯がお互いに当たってガチガチと音を立てている。 それを知ってか知らずか、彼は話を続けた。 「その姿も本当の姿じゃねぇな。お前はそのお嬢様とやらを守るために戦っているらしいが、出し惜しみはよくないぜ?せっかくのダンスのお誘いも、そうツ レな いんじゃ悲しくなっちまう。そうだろ?」 やれやれと、ダンテは大仰に両腕を広げた。悲しいと口に出してはいるが、どこまで本気なのか、とてもそうは見えない。しかし、そんなことも目に入らない ほど動揺していたのは事実だ。 ――何で知っている―― ――どうして分かった―― ――私を■■の■■■だと知って何故―― ――そんな目をしているんだ?―― 今まで刹那のことを半妖と知って、普通に接してくれたのは一部の人間だけであった。それでも、彼らは半妖に対して理解があるだけで、自分と彼らは違う存 在なのだという感覚を拭うことができなかった。 だが、ダンテの眼は違った。半妖としての刹那ではなく、人間としての刹那を見るように真っ直ぐな眼差しを彼女に向けている。半妖に対して、拒絶や恐れな どまるで感じていないかのように。 ――何故……?どうして……?―― ダンテのことが分からず、そのことがとてつもなく恐ろしく感じて、刹那は遂に夕凪を取り落として自分の肩を抱く。 ――私は……化け物なのに―― 彼女はもう、戦意を喪失していた。 夕凪が地面に落ちるのを見届けた彼は、これ以上の再演は不可能だと知る。先程の異形達と戦うよりも楽しめたものの、完全に満足することができず、 その不満が顔に出てしまった。 ただ、彼は少し気分が高揚してもいた。まさかこの極東の地で、同じ境遇と言うべき存在に出会うとは露とも思わってなかったのだから。しかも彼女は、同 じく 夜間警備員の一人でもあるようだ。レディにこの仕事を押しつけられた時は憤懣やるせないといった彼だったが、なかなかに神様も粋なことをしてくれる、と内 心喜んだ。 彼はいまだに俯き震え続ける刹那を一瞥する。元々小柄な彼女の体がさらに小さく見え、今更ながらに、何か悪いことでも言ってしまったかと考え込む。 しかし彼には思い当たる節がない。しいて言えば彼女の正体を口にしてからおかしくなったが、それで戦意を喪失するとはとても思えなかったからだ。 そこには自身の特殊な生まれに対する二人のスタンスの違いがあるのだが、彼がこの場で気付くことはなかった。 「ヘイ、お嬢ちゃん」 「っ!?」 ビクンと、刹那が大きく震える。そろそろと顔を上げる彼女の表情は、その童顔も相まってまるで子犬のようであり、ダンテはそれを見て少しばつが悪くなっ た。ここまで弱々しいと、自分が何かとんでもないことをしでかしてしまったのではないかと心配になってくる。 しかし、この時彼の鋭敏な知覚が背後から近づいてくる何者かの気配を捉えていた。数は複数。かなりの高速で接近していることから、もうすぐにこの場所ま で辿り着くであろう。 ここに彼女を置いて行くのは後ろ髪を引かれたものの、ダンテは背後から近付く何者かの気配を前に、会話を断念する他なかった。ただでさえ敵と間違えられ てうんざりしているのに、これ以上面倒事に関わるのは御免だったからだ。 「Adios!(アバヨ!)」 そう言い残して、ダンテは街灯から飛び上がって闇夜に消えた。後に残るは静寂のみ。 刹那は、別の地区を担当していた援軍が到着するまで、そこに立ち尽くしていた。 |
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